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「四季の味」に掲載されました。

「四季の味」 No.43 (ニュー・サイエンス社出版) に掲載されました。
(掲載記事より) 川崎で韓国食材店を営む夫のもとにとついで、はや四十年。ほんとうにいろいろなことがありました。でも、いまでは私たちの店に、在日韓国人の方はもちろん、日本人のお得意さんも、遠くから買いに来てくださいます。「ここのキムチはほんとうにうまいね」といわれるだけで、日ごろの苦労も吹き飛んでしまうのです。 ところで、韓国には、陽暦と陰暦がいまも混在していることをご存知ですか。陽暦の正月は、大晦日のカウントダウンから年が改まるまでのにぎやかなお祝いムード。日本の一般的なお正月と変わりません。私たちには、陰暦の正月のほうがはるかに重要で"ソルラル"と呼ばれ、もっと神聖な意味合いがこめられています。 元旦の朝には、チマチョゴリで正装してチェサといわれる法事を執り行い、目上の人に新年の挨拶を済ませてから、お墓へとおまいりするのが恒例の行事。つまりは、感謝の念をもって祖先を祀り、年長者への敬意を払う、儒教の教えに則った大切な日なのです。正月の料理はというと、日本のように、いわゆるお節のようなものは取り立ててありませんが、茹で豚、チャプチェ、いろいろなチヂムやナムルなど、いまではすっかりおなじみの前菜の盛り合わせが主体となります。 正月に欠かせないのは、トックッでしょう。ようするに韓国のお餅ですが、材料は糯米ではなく粳米。長寿の願いを籠めて細長い棒状にし、これを端から切ってメダル形にしたものを、鶏肉や牛肉から引いたスープにたくさん入れるというのがポピュラーな食べ方です。 お祝いに酌み交わすお酒は、これも近頃ではよく知られるようになったマッコルリ。米のご飯に麹を混ぜて仕込む発酵酒で、はるかむかしから朝鮮半島に伝えられる濁り酒です。 お気づきのように、韓国料理は、いわば発酵文化の華。遠い祖先から受け継がれてきた食体系なのです。昨今の韓流ブームで、母国に関心が寄せられるのは喜ばしいことなのですが、私たちが大切にしている精神世界や食文化史にも目を向けていただければ幸いです。